先日、日本経済新聞に非常に興味深い記事が掲載されました。
AI面接サービスを展開するPeopleX(ピープルエックス)が、2026年1月からAIを相手に商談や接客の練習ができる「AIロープレ」の提供を始めるというニュースです 。
このサービスは、アバターの性格や場面を詳細に設定でき、「100万円の複合機を代表電話でアポ獲得する」といった具体的なシチュエーションでの練習が可能です。
さらに対話終了後には、AIが効果的なアプローチや改善点をフィードバックし、商談の成否まで判定してくれるといいます 。同社はこれを、AIが組織の一員として意思決定や実務を担う「AIワーカー」シリーズとして展開していく計画です 。
人事教育コンサルタントとして、デジタル技術と人間の関わり方を日々考えている私にとって、この記事は大きな衝撃と共に、人材育成の未来を予感させるものでした。
今回、この記事を引用した理由は大きく2つあります。
1つ目は、既存の研修スタイルとの親和性と戦略的価値です。
現在、弊社が提供している営業研修の中でも、ロールプレイをビデオ撮影して個別フィードバックを行うプログラムは非常に人気があります。
客観的に自分の姿を見ることは、成長に欠かせないプロセスだからです。
この「AIロープレ」は、ある意味では弊社の競合サービスになり得ますが、同時に強力なパートナーにもなり得ます 。
こうした最新テクノロジーを自社の研修カリキュラムに組み込み、AIによる「量」の練習と、人間による「質」の仕上げを組み合わせることは、これからの時代の教育戦略として非常に有効だと感じています。
2つ目は、若手・中堅社員の行動変容です。
最近の研修現場では、若手社員がAIに対して「壁打ち(思考の整理やシミュレーション)」をすることが珍しくなくなっています。
彼らにとって、デジタルツールは単なる代替手段ではなく、ごく自然なコミュニケーションの相手なのです。
ここまでAIが精度の高い練習相手になってくれるのであれば、わざわざ忙しい上司の手を止めて「練習に付き合ってください」と頼む必要はなくなります。
AIで徹底的に自主練を重ね、最終リハーサルのみを人間が行う。
そんな学習パターンが標準化されていくでしょう 。
AIによる指導には、人間には真似できない独自の利点があります。
感情的摩擦の軽減: 人間から厳しい指摘を受けると、つい感情的に反発したくなるものですが、AI相手であれば素直に聞き入れられるという側面があります。
個別最適化と継続性: AIは利用者の過去のデータを蓄積し、各人のレベルや課題に合わせた最適な指導を24時間いつでも提供できます。
上司の負担軽減: 面談後のストレス状態をスコア化したり、人事への提言を作成したりする機能も備わっており、管理職の心理的・時間的負担を大幅に軽減します。
特に、現在の中高生、いわゆる「アルファ世代」は、GIGAスクール構想によってデジタルでの個別最適化学習を当たり前に受けて育っています。
彼らが社会に出る頃には、AIによる面談や指導に抵抗を感じるどころか、むしろそれを当然のインフラとして求めるようになるはずです。
このテクノロジーは、特にリソースの限られた中小企業にとって、人手不足のハンディを埋める大きな武器になります。
教育担当を専任で置けなくても、クラウド経由で高品質な教育環境を整えることができるからです。
しかし、ここで忘れてはならないのは、以前のコラムでも書いた通り「デジタルはあくまで手段」だということです。
AIに部下教育を丸投げしてしまえば、教育は必ず失敗します。
なぜなら、スキルアップさせることと、そのスキルを現場で発揮させることは別物だからです。
AIは知識や論理的なテクニックを教えることは得意ですが、部下の情熱を呼び起こし、失敗を許容し、実践の場を提供することは人間にしかできません。
AIが優秀な「教え手」になればなるほど、私たち上司や先輩には、「なぜその仕事をやるのか」という哲学を語り、部下と誠実に向き合う人間力が試されるようになります。
AI時代の教育とは、効率化をAIに任せ、人間はより本質的な「対話」に時間を割くこと。
この変化を前向きに捉え、新しい育成のあり方を模索していきたいと思う今日この頃です。