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木村 圭

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第10回 あなたにしかできない話をしてください

2022/02/07

私は経営者にスピーチの作り方を指導することがあるのですが、その際、よくこんな質問をされます。

「人の心を動かすいい話がしたいんですけど、ネタがないんですよね……。」

聞くと、多くの経営者は他社が取り組んでいるおもしろい事例を経済紙から切り抜いたり、成功者の自伝や歴史書を読んで感銘を受けた言葉や名言をメモしたり、“いい話の仕入れ”を行っているようです。

しかし、忙しい時はインプットする時間がなく、ネタ切れしてしまう……。そのため「いい話をするためのネタってどうすればいいの?」という相談をよく受けます。

私はこうした相談を受ける際、いつも次のように答えています。

「いい話をする必要はありません。あなたにしかできない話をしてください。」

多くの経営者が『スピーチ=いい話をしなきゃいけない』と誤解しています。そして、その『いい話』は『自分以外の誰か“すごい人”の話』と勘違いしています。

確かに、成功者や偉人のエピソードはおもしろいです。名言となっているものを引用してスピーチすれば、「お、博識だな」と思われて気分が良くなるかもしれません。

しかし、そもそもの話、成功者や偉人の話がおもしろいのは、それを話したり書いたりしているのが、その成功者本人だからです。本人の生の声だから、「なるほど」と納得できるわけです。

本人でもない人が、「松下幸之助は言いました。“商売とは、感動を与えることである。”と。そう私たちのサービスも感動を与えるものでなければなりません!」と言ったところで、「それ、あなたの言葉じゃないでしょ」とツッコまれるだけです。

ではどんな話をすればいいのか?

それは、あなたの経験を話すこと、つまり『あなたにしかできない話』をすることです。

聞き手はいい話やすごい話を聞きたいのではありません。あなたがどんな人物なのか、何を考えているのか、そういう人柄がわかる話を聞きたいと思っています。

これはちょっと考えればわかることです。あなたが訪れたセミナーや講演会で、登壇している人物が別の人物の話ばかりしていたらどうでしょう。「いや、お前の話をしろよ!」とツッコみたくなりますよね。

なので、他の誰でもないあなたの話をしてほしいのです。

ここまで聞くと「私には人に聞かせられるようないい話やすごい話なんてないよ」と言う人もいるかもしれません。しかし、そんなものは不要です。

極端な話、『スマホを見ながら夕飯を食べていたら奥さんに叱られた』という話でも構いません。そんな日常の、むしろ恥ずかしい話でもいいのです。

では、今の話、実際のスピーチにしてみるとどうなるでしょうか。

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二兎を追う者は一兎をも得ず。欲張ると何も得られないということわざですが、私はまさに昨日、そんな経験をしました。

時間は19時頃。家族で夕飯を食べていた時の話です。私はどうしても気になっていた仕事があって、スマホでその仕事の資料を見ていました。すると妻が箸をパンッと勢いよく置いてこう言いました。

「ねぇ! 食事中にスマホなんて行儀悪いと思わない? 子供たちだってやってないのに」

妻に叱られて恥ずかしいやら情けないやら……。当然、その日の夕飯は何の味もしませんでした。

これは仕事でも同じことがいえるのではないでしょうか。忙しいとついつい同時進行で別のことをやりがちですよね。でもマルチタスクは集中力や生産性を低下させるという研究結果もあり、ミスや事故を招きかねません。結局、二兎を追う者は一兎をも得ずということになります

なのでみなさんには忙しい時ほど仕事に丁寧に取り組んでもらいたい。昨日の私のように、せっかくの美味しいご飯を台無しにしないよう、ひとつひとつの仕事を、しっかりと味わいながら進めてもらいたいです。

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いかがでしょうか。日常の何気ない話であっても、このようにメッセージ性のあるスピーチにすることができます。

もちろん、経験談を交えたからといって、すぐにこうしたスピーチが作れるわけではありません。しかし、慣れるまではメッセージ性など考えず、「昨日、こんなことがあった」「学生時代、こんな経験をした」という話だけでもOKです。それだけでも「へー、〇〇社長って普段はお堅いイメージだけど、実はおもしろい人なんだ」と思ってもらえます。

それに、自分の経験談であれば、リソースは無限です。新聞や書籍はインプットに時間がかかりますが、自分の経験はインプットなんてしなくてもいい。常に更新されていくからネタ切れなんて起こらない。1分前のできごと、10分前のできごと、1時間前のできごと、というように私たちは生きているだけで、スピーチのネタを自動的にストックしているのです。

「いい話をしなきゃいけない」と思い込んでいる人は、一度その考えを捨て、なんてことのないご自身の日常に目を向けてみてください。あなたにしかできない話にこそ、人を動かすスピーチのヒントがあるはずです。